研究概要 |
クモ膜下出血患者の髄液TGF-β1濃度を、正常圧水頭症を併発した患者と、しなかった患者の間で比較すると有意差が存在する。(1994)今回の研究でクモ膜下出血後くも膜下腔に遊離された白血球よりIL-6,TGF-β1などの炎症性サイトカインが多量に放出され、引き続いてCRPが上昇してくることがわかった。また出血後2週後の髄液中には活性型のTGF-β1が明らかに増加しており、これがクモ膜下出血後のくも膜下腔の繊維化に重要な役割を果たしている可能性があることがわかった。(2001) 実験的にもマウスの髄膜腔内にhuman recombinant TGF-β1を注入すると3週以降に容量依存性に脳室拡大が出現し交通性水頭症ができる。(1994)また、同種血清をマウス髄腔内に注入しても、同様の交通性水頭症が誘導され、これは抗ヒトTGF-β1ウサギ抗体で阻止できた。(1997)マウスの髄膜を電子顕微鏡で観察すると髄注後約2週間でくも膜下腔に繊維芽細胞が遊走してきてくも膜下腔の繊維化がおこる。(1998)TGF-β1注入により水頭症が発生したマウスのくも膜下腔にインクを注入すると、シャム群では10分以内に髄液が頚部リンパ節に流出が確認されるのに対し、水頭症群では有意の流出遅滞が見られ、くも膜下腔の繊維化が髄液の流れを阻害していることが明らかとなった(1999) また、ラットの側脳室にhrTGF-β1を注入すると、同様にクモ膜下腔の繊維化がみられ、Morris水迷路で空間認識能が低下していた。さらにラットの側脳室にNa^+,K^+-ATPaseの阻害剤であるouabainを注入すると空間認識能が可逆的かつ容量依存性に抑制されることを見い出した。またラットの脳室内にTGF-β1を投与すると、脳室拡大がないにもかかわらずくも膜細胞のNa^+,K^+-ATPase活性が低下し、空間認識能が抑制されることも見い出した。これらの実験やこれまでの研究から我々は正常圧水頭症の病態は脳脊髄液の灌流障害による脳室拡大というよりも余剰のneurotransmitterやneuronやgliaの代謝産物を含む脳の細胞外液の排泄不全がこの病態の本質であると考えられる。
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