ヒト脊髄活動磁界測定のための基礎実験として動物実験(成猫)を行った。胸髄を電気刺激し、頸髄の活動を皮膚上から磁界および電位を用いて測定した。従来から報告されているように、電位による測定では脊髄活動の伝導速度が200〜300m/sと計算され、生理学的な値を逸脱してしまうのに対して、磁界測定では80〜120m/sとなり、硬膜外腔より導出した電位測定による結果と同等であった。これにより、皮膚上から磁界測定は、非侵襲的検査法として電位測定より優れていることが証明された。さらに、脊髄障害モデルを作成し、脊髄誘発磁界を測定した。障害部位において、磁界分布の伝導がブロックする様子が観察され、SQUID磁束計により脊髄病変の診断が可能であることがわかった。また、大脳運動野刺激後の下行性脊髄誘発測定(脊髄内の運動路の同定)や、末梢神経刺激後の脊髄誘発磁界測定(シナプスと軸索の複合活動の同定)も行い、脊髄の生理学的な知見についても研究を行っている。 ヒトについては、まず前腕部における末梢神経の磁界を測定し、本装置がヒトの神経軸索活動を測定可能であることの確認とともに、装置のヒトへの適合性と安全性を確認した。 脊髄磁界については、下位胸髄刺激後、上位胸髄にて上行性脊髄誘発磁界の測定に世界で初めて成功した(第1回脳磁場ニューロイメージングにて発表)。脊髄椎弓切除術後の患者では磁界強度が大きいため、現状のシステムでも磁界測定が可能であったが、健常者では脊髄磁界の強度が小さいため、測定により多くの加算平均が必要なことがわかった。臨床検査装置としての実用化のためには、センサーの感度、数、配置等、改善が必要な所が本研究により明らかになった。今後、さらに研究を続け、脊髄磁界測定に最良なセンサーの条件を模索する予定である。
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