研究概要 |
関節軟骨修復をめざした遺伝子導入の第一歩として,軟骨組織特異的遺伝子発現システムの開発を行った.まず軟骨組織特異的発現用に既にわれわれが明らかにしたXI型コラーゲンα2鎖遺伝子(Col11a2)由来の軟骨特異的エレメントを含む領域(-742〜+380と第一イントロン2.3kb断片)に,マーカー遺伝子として緑色蛍光たんぱく(red-shift GFP)遺伝子を繋いだconstructを作製(742GFP-Int)した.ベクターには膜融合リポソーム(HVJ-liposome)を用い,このconstructをSCID-HuRAgマウス(ヒトのリウマチ関節組織を移植したモデルマウス)を用いてin vivoでヒト組織に遺伝子を導入する試みを行った. その結果,HVJ-liposomeを用いて実際にin vivoでヒト関節軟骨に遺伝子導入できることが確認された.また関節軟骨細胞の約30%では遺伝子導入後3週間経過しても,マーカー遺伝子が発現していることが確認された.さらに軟骨細胞への遺伝子導入は正常の関節軟骨ではほとんど起こらないのに対し,リウマチで軟骨破壊や変性が始まりかけた部位では効率よく導入された.しかもこの遺伝子はヒトの滑膜や骨髄組織,あるいはレシピエントのマウス肝臓・脾臓にも導入されたが,その遺伝子発現はヒト関節軟骨細胞のみに限局しており、組織特異的であった。この結果は実際にin vivoでヒトの関節軟骨に遺伝子を導入することが可能であり,しかもそれを安全に軟骨組織特異的に発現させることができることを初めて示したものである.また本結果に基づき,実際に軟骨への治療的遺伝子の導入を開始した.すなわち先のマーカー遺伝子であるGFPにかわって軟骨の分化増殖にかかわるCartilage derived morphogenetic protein (CDMP-1)遺伝子をつなぎ,これを家兎の関節軟骨全層欠損モデルにin vivoで投与して,関節軟骨の修復促進結果を得つつある.
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