本年度は気道反射に関する臨床的な研究を遂行し、ヒトにおける気道反射の特徴をより明確にする二つの事象を観察することができた。これらはいずれも周術期の呼吸管理で重要な意味合いを持つ事象である。 (1)第一は、持続的な気道粘膜刺激が気道反射にある種の順応をもたらす事象である。これは麻酔中に気管内挿管下にある患者の麻酔深度を麻酔導入直後と麻酔終了直前に低下させ、自然に誘発される気道反射の種類と反射発生の麻酔深度閾値を検討することで明らかとなった。すなわち、麻酔導入直後にみられる無呼吸反射や呼気反射は麻酔終了直前では稀となり、嚥下反射が主な反射となる。しかし、麻酔深度閾値には麻酔導入直後、終了直前で大きな差はなく、長時間の持続性気道粘膜刺激は反射閾値を変えずに反射効果のみを変化させた。これらの変化には持続的な末梢入力に対する中枢の順応が重要な役割を果たしている可能性がある。 (2)第二は、呼吸系に加えられた負荷によって嚥下反射と呼吸の協調性が影響を受ける事象である。これを明らかにした研究では健康被験者を対象とし、負荷としては粘性抵抗(180cm H_2O/L/s)、弾性抵抗(70cm H_2O/L)が加えられた。その結果、咽頭持続注水刺激によって誘発される嚥下反射が呼吸位相の関係で負荷の種類によって異なる影響を受けることが明らかになった。すなわち、負荷前には主に呼気相で生じる嚥下反射が、粘性抵抗負荷では吸気-呼気移行相で生じるようになり、弾性抵抗負荷では呼気-吸気移行相で生じるようになる。呼気-吸気移行相での嚥下は最も誤嚥を起こし易く、従って、肺線維症のような弾性抵増加疾患では誤嚥が発生し易いものと予想される。今後は周術期管理の現場でこれらの知識の臨床応用が図られるべきである。
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