本研究では慢性呼吸器疾患患者の周術期管理上重要と考えられる呼吸負荷代償作用、気道反射機能、および呼吸困難感について基礎および臨床的側面から検討した。主な研究成果としては慢性呼吸不全の動物モデルの作成ヒトにおける嚥下反射と呼吸の脇調性の分析、呼吸困難感緩和に対する吸入フロセミドの有効性とそのメカニズムの解明などが挙げられる。慢性呼吸不全動物モデル作成に関する研究ではラットの気管にステントを挿入して粘性抵抗負荷するモデルとラット胸郭を持続的にカフで圧迫する弾性抵抗負荷モデルを作成し、比較的長期の呼吸パターン変化や血液ガス変化の観察を行なった。これらの研究により、慢性呼吸負荷に対する代償機構には負荷に対して急速に反応し数日中に完了する早い代償機構と1週間程度かけて徐々に生じる代償機構の二つの機構が存在することが示唆された。ヒトにおける嚥下反射と呼吸の協調性に関する研究によって、肺容量の増加は嚥下反射の潜時を延長し、嚥下回数の低下をもたらすことが明らかとなった。さらに、通常主に呼気相に生じる嚥下反射が肺容量の増加によって嚥下と呼吸位相との特異な関係が失われた。これらの研究結果は肺容量の変化が生じる慢性呼吸不全患者の嚥下機能を評価する際に重要な情報の一つとなる。呼吸困難感に関する研究では吸入フロセミドはヒトにおける呼吸困難感を緩和すること、ラットの肺伸展受容器活動を増強し、肺侵害受容器活動を抑制することが明らかとなった。これらの実験事実より、吸入フロセミドの呼吸困難感緩和作用に迷走神経求心路からの情報が重要な役割を果たすことが示唆された。また、麻酔下ネコ気道完全閉塞モデルを用い、吸入フロセミドの逃避反応に対する影響について検討した結果、麻酔下ネコ完全気道閉塞モデルは呼吸困難感の発生機序や治療の研究に応用できる可能性が示唆された。
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