心筋の虚血-再灌流障害では、虚血中に心筋細胞内のアシドーシスが生じ、再灌流時にNa^+/H^+交換系・Na^+/Ca^<2+>交換系が活性化され、心筋細胞内カルシウムの異常蓄積が生じ、不可逆的障害が引き起こされると考えられる。吸入麻酔薬は虚血中の心筋細胞内アシドーシスを抑制することにより、心筋の虚血-再灌流障害に対し保護的に作用することが予想される。平成13年度は平成11年度・12年度・13年度と同様にウサギならびにラット心臓よりの単離心筋細胞を使用し、sodium cyanide(NaCN)を含むglucose無添加灌流液による虚血-再潅流モデルにて検討を行った。今年度は細胞内pH変化と細胞内ナトリウム・カルシウム濃度変化の両面から、吸入麻酔薬が虚血再潅流時の心筋細胞機能に与える影響を検討した。細胞内pHの変化はBCECF、細胞内ナトリウム濃度はSBFI、細胞内カルシウム濃度はFIuo-3を使用して測定した。吸入麻酔薬は虚血の前から投与し、虚血中も投与した。吸入麻酔薬単独と吸入麻酔薬投与に加えて、Na^+/H^+交換抑制剤amiloridcを投与した場合とを比較検討した。吸入麻酔薬の投与により虚血中のアシドーシスの程度は抑制された。再潅流を行うとナトリウム濃度は上昇するが、吸入麻酔薬群ではその程度は抑制されていた。再潅流後細胞内カルシウム濃度は上昇したが、吸入麻酔薬群では上昇の程度が抑制されていた。Na^+H^+交換抑制剤amilorideを前投与すると、虚血中のアシドーシスは抑制された。さらに吸入麻酔薬を加えてもアシドーシスの程度は変化しなかった。以上から、吸入麻酔薬は主にNa^+/H+交換系を抑制することで、再灌流障害時のアシドーシスを抑制し、心筋の虚血-再灌流障害に対し保護的に作用することが示された。
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