吸入麻酔薬は心筋の虚血-再灌流障害に対し保護的に作用することは以前より報告されている。心筋細胞内pHはNa+/H+交換系、H+-HCO3-共同交換系など少なくとも3系統の調節系で調節されているが、吸入麻酔薬が細胞内pH調節系への作用を検討した報告は未だ無い。われわれは虚血再灌流モデルを用い、細胞内pH変化を蛍光色素法を用いて検討した。ウサギならびにラット心臓よりの単離心筋細胞を使用し、虚血再灌流モデルは化学的無酸素化としsodium cyanide(NaCN)を含むglucose無添加灌流液と通常の灌流液による再酸素化にて作製した。細胞内pHの変化はpH感受性蛍光色素(BCECF)、細胞内ナトリウム濃度はSBFI、細胞内カルシウム濃度はFluo-3を使用して測定した。吸入麻酔薬は虚血の前から投与し虚血中も投与を継続した。吸入麻酔薬単独とNa^+/H^+交換抑制剤併用の場合とを比較検討した。吸入麻酔薬投与により虚血中のアシドーシスは抑制された。再灌流後、細胞内ナトリウム濃度は上昇したが、吸入麻酔薬はその程度を抑制した。同様に、再灌流後の細胞内カルシウム濃度は上昇したが、吸入麻酔薬はその程度を抑制した。Na^+/H^+交換抑制剤投与で虚血中のアシドーシスは抑制された。Na+/H+交換抑制剤を併用しても吸入麻酔薬による虚血中のアシドーシス抑制の程度は変化しなかった。以上のことから、吸入麻酔薬は主にNa^+/H^+交換系を抑制することで、再灌流障害時のアシドーシスを抑制し、心筋の虚血-再灌流障害に対し保護的に作用することが示された。
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