研究概要 |
ヒトの感音難聴は遺伝性のものが多いにも関わらず,同定されている遺伝子は数少ない。その理由としては,ヒトでの遺伝子解析の困難と,生体から内耳の組織採取が困難であるためである。本研究では,聴覚障害モデル動物を用いて感音難聴の病態解明を行った。当該年度には,難聴ならびに行動異常マウスとして知られていたJackson shaker mouseを検討した。本マウスは高度難聴を示し,振戦,首振り運動,回旋運動などの行動異常を呈する。内耳組織所見では,蝸牛有毛細胞の感覚毛の配列障害が同定された。前庭では,感覚細胞において,巨大な感覚毛が観察され,蝸牛と同様に感覚毛の配列障害がみられた。これらの内耳奇形を呈する原因遺伝子は,分子モーターであるキネシン遺伝子変異によるものと判明した。われわれは,すでにヒトの遺伝性感音難聴家系において,ミオシン7A遺伝子変異が難聴の原因であると同定している。Jackson shaker rmouseの遺伝子変異がキネシンと判明したことで,内耳での分子モーターの生理学的重要性が再認識され,難聴をはじめとする内耳疾患の原因としても重要であることを解明した。 ホメオボックス遺伝子変異としては,EyaとSix遺伝子の相互関連を検討した。その結果,Eya蛋白質が細胞質から核へと移行し、Six蛋白質と複合体を形成することで,SixとEyaの協同作用が生じる点を証明した。 内耳奇形マウスとして報告されているWriggle Mouse Sagami(wri)においては,Plasma Membrane Ca-ATPase type2(PMCA2)遺伝子の変異が疑われたため塩基配列を決定し,同遺伝子1234位の点変異を同定した。対応するアミノ酸では412位のグルタミン酸がリジンへ置換されており,内耳有毛細胞における特異抗体の染色性が低下していた。PMCA2遺伝子はヒトにおいては第3染色体短腕に存在するが,同遺伝子異常によって生じるヒト疾患、難聴家系はいまだ同定されていない。
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