研究概要 |
遺伝性難聴の原因遺伝子ならびに遺伝子座が多数同定されている。2002年2月の時点では,優性遺伝では41遺伝子座,劣性遺伝では30遺伝子座,X連鎖では6遺伝子座が報告され,27個の難聴遺伝子が同定されている。この難聴遺伝子同定において,内耳障害を有するマウスは,マウス内耳がヒト内耳と解剖学的,生理学的に類似し,同一の遺伝子変異で内耳障害が生じるため,重要な実験動物となる。 1.C57/C3H系統のLacZをレポーターとしたトランスジェニックマウスとC57の交配より得られ,分子モーター遺伝子変異が想定されている突然変異マウスの聴覚と内耳組織を検討した。このマウスのホモ接合体は,著しい回転運動を呈した。12週齢の野生型とホモ接合体,8週齢のヘテロ接合体の聴覚を10kHzのtone pipによるABRで計測した。野生型は20dB,ヘテロ接合体は40dB,ホモ接合体は50dBの閾値であり,野生型,ヘテロ接合体,ホモ接合体の順に聴力レベルの低下が認められた。側頭骨組織所見では,ラセン神経節細胞数が聴覚レベルに対応して減少していた。 2.ホメオボックス遺伝子と共発現するSix遺伝子のなかで,Six4遺伝子のノックアウトマウスは内耳障害を示さなかったが,他の転写遺伝子のノックアウトマウスでは,内耳発生過程の障害を認めた。 3.分子モーター遺伝子のミオシンVIIA遺伝子変異が既知のヒトの優性遺伝家系DFNA11において,詳細な聴覚検査を施行し,全例が左右対称性の両側感音難聴を呈し,1年に平均0.2から2.1dBの聴覚閾値の悪化がみられた。DFNA11家系はミオシンVIIA遺伝子変異の表現型としては中等度である。難聴は,ミオシンVIIA遺伝子のCoiled-coil部位における2量体形成障害によるdominant negative effectによる難聴で,感覚毛のチヤネル障害が主要な病変と想定される。
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