音響外傷による難聴では内耳の感覚細胞である有毛細胞が障害され、さらにその中枢側に存在する蝸牛神経が2次的に変性によることが知られている。神経栄養因子の1つであるGDNF(glial derived neurotrophic factor)は、このような音響性聴覚障害における有毛細胞の保護作用や神経変性の予防効果があると考えられている。GDNFは内服による全身投与は不可能であり、内耳に直接投与する必要がある。遺伝子導入によるGDNF投与はGDNFの持続的投与ができるという点で優れている。今年度は内耳にGDNF遺伝子を発現させることで、GDNFがどの範囲にまで分布しているかを調査した。また、有毛細胞損失後のラセン神経節変性に対するGDNFの長期効果について検討した。その結果、GDNFは基底回転から頂回転までのコルチ器において柱細胞に発現が認められた。また、神経節においてもGDNFの発現を認めた。なお、反対側耳には発現が見られなかった。さらに、GDNF投与5週後のラセン神経節に対する効果を見たところ、全回転において非投与側に比べて150から200%以上の神経節細胞数の生存が確認され、統計学的有意差が認められた。以上の結果から、GDNFの発現がラセン神経節生存に効果があることが示唆された。また、GDNFの発現はコルチ器にもみられたことから、これはコルチ器にもGDNFが運ばれ、影響を及ぼすことが想定された。
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