研究概要 |
レーザによる治療では,常にその発熱が問題となる.照射によって歯質を溶かし蒸発させる除去形態をとることから,患部は瞬間的にせよ相当の高温になると考えられる.発熱が大きすぎると,歯髄の温度が上がり,痛みを感じるだけでなくその変質をまねき,時には歯髄は死んでしまう. 本研究は歯における熱伝導現象を工学的な立場から検討することにより,レーザによる歯の治療を安全にかつ効率よく行う方法を確立するための基礎的研究を目的としておこなった. 前年度は,温度計測,歯の物性値の測定など本研究を行う上で必要な基礎的なデータを測定することに主眼を置いたが,本年度は解析に主力をおいて研究を行った.具体的には, (1)有限要素法温度解析を行い,測定結果と比較することにより,歯組織内の熱の流れを詳細に検討する事が出来た.これにより,安全なレーザ照射を行うために必要な基礎的な基準を設けることが出来た. (2)Er-YAGレーザによる有効なレーザ照射方法について検討した.その結果,Er-YAGレーザは水に対する吸収率が大きいことから,大部分が歯表面で吸収され,歯髄に及ぼす熱の影響はNd-YAGレーザよりもはるかに小さく抑えられることがわかった.このため,レーザエネルギーを上げて,大きな除去量を得ることも可能である. (3)熱応力の計算をおこない,Er:YAGレーザの結果と比較検討することにより,Nd:YAGレーザで歯の割れが生じる原因について調べた.その結果,熱応力によるひび割れはEr-YAGレーザでも起こること,レーザの照射方法に工夫すればNd:YAGレーザにおいても熱亀裂を防ぐことができること,がわかった.
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