研究概要 |
頭頚部扁平上皮癌患者の治療に際しては二次癌の発生の可能性を考慮することが重要である。本研究の目的は、二次癌予防の基礎的研究として、多発した前癌病変、あるいは癌組織を採取し、その遺伝子上の変化について解析することにより、その成因を明らかにし、二次癌の予防に役立てることである。申請者らは現在まで、病理組織学的に扁平上皮癌、あるいは前癌病変と診断された患者を対象に、その生検組織、あるいは外科切除組織を用い、p53遺伝子の異常、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染について検索し、高頻度にp53遺伝子の異常、HPVの感染を認めることを報告した(Oncogene,12:1663-1668,1996,Oncogene,15:2667-2674,1997)。今回、同時性、異時性を含めた口腔多重病変を有する患者の癌組織、前癌病変の組織を用いて染色体上の3p14、9p21、17p13領域における変異(microsatellite instability, loss of heterozygosity)を検討し、field cancerization theoryを分子生物学的に証明することを試みた。その結果、1)大部分の口腔多発前癌病変はそれぞれ独立に発生しており、field cancerization theoryを裏付ける結果が得られた。2)口腔多発癌ではfield cancerization theoryを裏付ける発癌に加え、common clonal originのものも存在する可能性が示唆された。3)3p14、9p21、17p13領域でのmicrosatelliteの変化は病変の進展に伴い蓄積される傾向を示した(第90回米国癌学会、第58回日本癌学会総会にて報告)。また動物実験においてもp53遺伝子の異常を指標にDMBA誘発多発頬粘膜癌のclonalityについて検討し、multiclonalに発癌しており、field cancerization theoryのモデルとして有用であることが示唆された(日本口腔科学会雑誌,47:316-322, 1998)。
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