研究概要 |
我々は,扁平上皮癌細胞の培養上清からFGF-2と共精製した17kDaのヘパリン結合性分泌蛋白をHBp17と命名し,そのcDNA構造を明らかにすると共に,同蛋白がFGF-1,-2と可逆的に結合しその活性を制御することを明らかにしてきた。本研究においては,HBp17/FGFBP分子の機能を明らかにするため,HBp17/FGFBPに対するmonoclonal抗体を作成し,扁平上皮の悪性化過程におけるHBp17蛋白の発現を検討した。さらに,センス・アンチセンスHBp17/FGFBPcDNAを用いて扁平上皮癌細胞の増殖および造腫瘍性におけるHBp17の機能を明らかにし,HBp17/FGFBP分子を標的とした扁平上皮癌の分子標的療法を目指した。さらに,唾液腺癌細胞HSYに野生型KGFR遺伝子を導入し,各細胞の増殖能,FGFsに対する反応性,アポトーシス関連シグナルについて,さらに,ヌードマウス背部皮下移植系での増殖能,分化能,造腫瘍性の検討を行いヒト唾液腺癌の分化誘導を目指した遺伝子治療の研究を行った。その結果以下のことを明らかにした。 1. 扁平上皮癌の悪性化過程においてHBp17/FGF-BPの発現は増大し,その発現パターンはFGF-2と一致した。 2. HBp17/FGF-BPセンスcDNA導入細胞は培養上清中への高いFGF-2の産生およびin vitroでの増殖能の亢進を示すと共にヌードマウスでの造腫瘍性を獲得した。 3. HBp17/FGF-BPアンチセンスcDNA導入細胞のin vitro,in vovoでの増殖能および造腫瘍性は低下した。 4. HSY_<R2-IIIb>においてはアミラーゼmRNAおよび同蛋白が高発現していた。また,無血清培地では増殖できず,FGF-1およびFGF-2に対する反応性は示さなかった。 5. KGF処理したHSYR2-IIIbでは,TUNEL法においてアポトーシスを示唆した。またDNAの断片化を示すladder formationが認められ,カスパーゼ3の高い活性が認められた。 6. ヌードマウス背部皮下での増殖能は低下し,一部のクローンは造腫瘍性が消失した。また,electroporation法を用いて,1週目にKGFR遺伝子を導入したものの腫瘍は完全に消失した。しかし,細胞移植後2〜4週間経過したものでは,腫瘍の縮小は認めるものの消失にはいたらなかった。また,導入4週間後も,組織内にKGFR遺伝子は残存しており,アポトーシス像および組織分化像が観察できた。 以上の結果から,HBp17/FGFBPは腫瘍由来FGF-2の細胞外への分泌および細胞外基質でのFGF-2の活性化に深く関与していることが明らかとなり,扁平上皮の悪性化過程に重要な働きをしている可能性が強く示唆された。また,HBp17/FGFBPの発現を遺伝子レベルで制御することにより,扁平上皮癌の浸潤・増殖や血管新生を抑制出来る可能性が考えられた。さらに,HBp17/FGFBP分子を指標とした扁平上皮癌の早期診断の可能性が示唆された。さらに,HSYに野生型KGFR遺伝子を導入することにより,細胞分化やアポトーシスを誘導することが明らかとなり,野生型KGFR遺伝子を用いた唾液腺由来腺癌の遺伝子治療の可能性が示唆された。
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