ヘマトポルフィリン誘導体(HpD)等の光感受性色素と光照射の併用による光線力学的療法(PDT)は早期の肺癌や消化器癌に応用され、その有用性が確認されつつある。今回我々は、口腔癌の治療に本療法を応用いるためHpDと口腔由来培養癌細胞を用いての基礎的研究を行った。 HpDと光照射の併用は、培養細胞に強い殺細胞作用を示した。またHpDの細胞内の局在は主にミトコンドリアであることから細胞変異を生じにくい治療法であるとが考えられた。さらに活性酸素の消去剤であるアスコンビル酸、α-トコフェロールおよびβ-カロチンを併用することによりHpDの殺細胞作用が抑制されること、グルタチオンの合成を阻害するbuthionine-sulfoximineの併用により殺細胞作用が増強されることから、本療法の機序に活性酸素の関与が強く示唆された。 口腔由来扁平上皮癌培養細胞(SCC)と唾液腺由来腺癌培養細胞(SAC)を用いてHpDと光照射の併用による殺細胞効果を比較検討した。その結果、SCCはSACに比較してPDTに高い感受性を示し、その原因としてHpDの細胞内濃度がSACに比較してSCCで高いことを明らかにした。またHpDが能動輸送により細胞内に取り込まれることから、膜透過性を決定すると思われる細胞膜脂質組成を分析した。その結果、SCCでは膜脂質の70%以上がphospholipidであり、残りはcholesterolであった。 SACでは80%がtriglycerideとcholesterol esterを中心としたneutral lipidで、残りの20%がphospholipidで占められた。そのためSCCでは細胞膜の疎水性が高くHpDの取り込みがSACに比較して高くなり感受性の相違を生じたものと考えられた。現在、SCCと同組成の脂質からなるリポソームにHpDを封入することにより、HpDをSCCに選択的に取り込ませ、より抗腫瘍効果の高いPDTの開発を行なっている。この療法を用いることにより口腔扁平上皮癌の新しい治療法になるものと考えられた。
|