研究概要 |
Streptococcus oralisは,口腔常在細菌叢を構成するサングイスレンサ球菌の一菌種で,出産直後の乳児口腔からも検出される.このS.oralisは,スクロースからグルカンを合成する酵素グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)を産生し,その働きによりデンタルプラークの形成に関与すると考えられている.本年度は,S.OralisのGTaseを分離精製し,その生化学的および免疫科学的性状を明らかにし,ミュータンスレンサ球菌に対する作用を調べた. S.Oralis GTaseをその培養上清からカラムクロマトグラフィーにより分離し,SDS-PAGE上で分子量173kDaを示す単一のバンドにまで精製した.精製標品の生化学的性状は,等電点は6.3,至適Phは6.5,スクロースを基質としたときのKm値は2.49mMであった.このS.Oralis GTaseは,主に水溶性グルカンを合成するプライマー非依存性の酵素であり,そのグルカン合成活性は主に2価の金属イオンにより阻害を受けた.このGTase標品を家兎に免疫することにより得られた抗S.Oralis GTase抗体は,精製S.Oralis GTaseのグルカン合成活性を濃度依存的に阻害するとともに,同種のS.Oralisおよび同じくサングイスレンサ球菌に属するS.sanguis,S.gordoniiのGTase活性も有意に阻害した. さらにS.Oralis GTaseの添加は,S.mutans静止菌体のガラス試験管壁への付着を明確に増強した.この結果はS.oralisの存在がS.mutansの口腔内への感染,定着に関与する可能性を示唆していた.
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