研究概要 |
Streptococcus oralisはサングイスレンサ球菌の一種で,乳児口腔からも検出される.このS.oralisはグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)の作用によりスクロースからグルカンを合成するため,デンタルプラークの形成に関与し,さらにStreptococcus mutansの歯面付着にも影響を及ぼすことが示唆されている.本年度は,平成11,12年度に精製したS.oralis GTaseを用いて,S.mutans静止菌体のスクロース依存性平滑面付着に対するS.oralis GTaseの影響を検討した. S.mutans培養菌体をアジ化ナトリウムを含むリン酸カリウム緩衝液で洗浄後,1%スクロースを含む同緩衝液に懸濁,濁度を調製した.同菌液とS.oralis GTase精製標品をガラス試験管に加え,水平面に対して30°に傾斜し,37℃,18時間静置させた.ついで試験管をボルテックスミキサーで撹拌して非付着菌体を除去後,蒸留水を加え,試験管壁より超音波発生機を用いて剥離した菌体の濁度を測定して付着菌体量とした.これらの濁度から全菌体に対するS.mutans静止菌体の付着率を計算した.その結果,S.oralis GTase非存在下でのS.mutansの付着率は,約40%であった.一方,S.oralis GTaseを添加するとS.mutans静止菌体の付着は約80%まで増加し,S.mutans生育菌体での付着率に近似した値を示した.これはS.mutansの菌体遊離型GTaseの代わりにS.oralis GTaseが合成した水溶性グルカンとS.mutansの菌体結合型GTaseにより合成された非水溶性グルカンが協調して,S.mutansが強固に付着したためと考えられる.これより歯の萌出前から存在するS.oralisのGTaseの作用でS.mutansの歯面定着が増強することが示唆された.
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