研究概要 |
サングイスレンサ球菌は出産直後の乳児口腔からも検出され,齲蝕病原性菌のStreptococcus mutansに対して先行者として,その感染定着に影響を及ぼしていると考えられる.本研究ではサングイスレンサ球菌の一種で,乳児口腔からもっとも高頻度で検出されるStreptococcus oralisのグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)を精製し,その生化学的および免疫化学的性状を明かにした.さらに,精製したS.oralis GTaseをコードする遺伝子を含む8.1kbのDNA断片をクローニングして解析した.gtfR遺伝子の推定アミノ酸配列上のN末端側にはS.oralis GTaseに特異的な配列が存在することが,他の口腔レンサ球菌由来のGTaseとの多重整列によって明らかになり,これは菌種のPCR法による簡易同定法の開発につながった.またS.oralis GTaseを用いて,S.mutans静止菌体のスクロース依存性平滑面付着に対するS.oralis GTaseの影響を検討したところ,S.oralis GTase非存在下で約40%であったS.mutansの付着率は,S.oralis GTaseを添加すると約80%まで増加し,S.mutans生育菌体での付着率に近似した値を示した.これはS.mutansの菌体遊離型GTaseの代わりにS.oralis GTaseが合成した水溶性グルカンとS.mutansの菌体結合型GTaseにより合成された非水溶性グルカンが協調して,S.mutansが強固に付着したためと考えられる.これより歯の萌出前から存在するS.oralisのGTaseの作用でS.mutansの歯面定着が増強することが示唆された.
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