研究概要 |
分子量数千から数十万の有機分子である合成高分子と生体高分子が,高度な機能を発現することはよく知られており,高分子化学や生物化学で,研究が精力的に行われている.さて,合成化学的に得られる低分子有機化合物がオングストロームサイズであるのに対して,巨大合成有機分子はナノ有機分子と呼ぶことができる.我々は,現代有機化学の手法でナノ有機分子を取り扱ってみることに興味をもった.有機化学と高分子科学や生物化学の間の新しい領域が展開できるとともに,新しい機能性材料や生理活性物質の開発も期待される.本研究は光学活性ヘリセンで構成される大環状構造のナノ有機分子の合成と機能に関するものである. ヘリセン部を含有する大環状分子の合成が進展した.環状アミド,環状アセチレン,および環状酸無水物の合成法を確立した.環状アミドについては[1+1]cycloamideから[10+10]cycloamideをすべて合成した.環状アセチレンは[3+3]cycloalkyneから[6+6]cycloalkyneの合成法を確立した.また,環状無水物は三量体と四量体を得た.ここで,[1+1]cycloamideのLB膜形成と分子構造との関係を調べ,新規な官能基化された光学活性LB膜を調整した.また,[3+3]cycloalkyneが有機溶媒中で二量体会合することがわかった. ヘリセンによる不斉認識現象の解明が進んでいる.ピレンとポリニトロ化したヘリセンのCT錯体形成について調べた.結晶中では両者が互いに層状に積み重なった円柱状構造を取る.ここで,右ラセン構造のヘリセンは右ラセンから合成したCT錯体は右ラセン構造の円柱を与えた.一方,ラセミ体から合成した錯体では,右ラセンヘリセンは左ラセン円柱を生じ,左ラセンヘリセンは右ラセン円柱を与えた.ヘリセンのキラリティーによって,結晶構造が制御できる可能性が示された.
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