代表的な求核触媒である4-ピロリジノピリジン(PPY)は水酸基のアシル化などの炭素-酸素結合形成をはじめ、種々の炭素-窒素、炭素-炭素結合形成を温和な条件下に触媒する。これら一連の反応の不斉触媒化を目的として筆者らはPPY型不斉求核触媒を開発した。本年度はこの触媒を用いたラセミ体アミノアルコール誘導体の速度論的光学分割を行った。数種の環状アミノアルコール誘導体の水酸基のアシル化を本触媒(5mol%)の存在下、酸無水物を用いて室温で行った。本反応の選択性は酸無水物に依存し、イソ酪酸無水物を用いた時にいずれの基質についても99%ee以上の光学活性体を得ることができた(変換率64〜73%、選択性S=10〜21)。また触媒量を0.5mol%としても同様に有効な速度論的光学分割が進行した。 本触媒は酸無水物との結合によりinduced fit型構造変化を起こすため、高い触媒活性を損なうことなく、高度なエナンチオ選択性を発現するという特徴を持つ。速度論によるPPYとの触媒活性の比較を行ったところ、1)本触媒はPPYと同等以上のアシル化触媒能を持つ、2)エナンチオ選択性が基質特異的な加速性によって発現している、ことがわかった。 今後、新しい不斉求核触媒の合成及びこれらの触媒を用いた種々の基質(アミド、α-アミノ酸)の速度論的光学分割やσ-対称ジカルボン酸の不斉ラクトン化を検討して行く。
|