代表的な求核触媒である4-ピロリジノピリジン(PPY)を基本骨格とする不斉求核触媒を既に開発している。本年度はプロリン及び4-ヒドロキシプロリンを基本骨格とし、触媒部位にPPY構造を持つ種々の不斉求核触媒を設計、合成した。これらはいずれもアルコールのアシル化触媒として高い活性を示した。特にL-トリプトファンとL-プロリンから成る不斉求核触媒はラセミ体アルコールのアシル化による速度論的分割で高いエナンチオ選択性を示した。この不斉識別の機構を精査し、新たな不斉誘導メカニズムを提唱した。またこれらの触媒を用い、σ-対称ジオールカルボン酸のエナンチオトピックグループ選択的な環化反応による触媒的不斉ラクトン化反応を開発した。本反応は5、6員環ラクトン合成よりも7員環ラクトン合成において高いエナンチオ選択性を示す。さらにこれらの求核触媒をアミノ酸の縮合反応に適用したところ、トリプトファンとプロリンの縮合を特異的に加速することがわかった。即ちC末端アミノ酸15種類の混合物をカルボニル基を活性化したN末端アミノ酸と上記触媒存在下、競争的縮合反応に付すと、トリプトファンとプロリンを含むジペプチドが選択的に生成した。また4-ヒドロキシプロリンの水酸基にエステル結合を介して種々の基質認識側鎖を有する不斉求核触媒を合成した。これらはプロリンを出発物質として得た不斉求核触媒と類似の反応性と選択性を示した。
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