4-ピロリジノピリジン(PPY)に代表される求核触媒は水酸基のアシル化触媒としてよく知られているが、この他にもラクトン化などのC-O結合形成や多くのC-N、C-C結合形成を温和な条件下に触媒する。PPY型不斉求核触媒の開発ははこれら一連の反応の不斉触媒化を可能にし、常温、常圧で有効に働く環境調和型触媒的不斉プロセスにつながるものと期待される。本研究では我々が既に開発している不斉求核触媒CPPがアミノアルコール類の優れた不斉アシル化触媒となることを示した。またCPPによる不斉アシル化の機構を詳細に検討し、遷移状態での水素結合を基調とする新しい機構を明らかにした。この機構ではCPP触媒の特徴であるエナンチオ選択的な反応加速性をうまく説明することができる。 L-プロリンから容易に誘導できるPPY型不斉求核触媒を開発した。本触媒はCPPと同様、活性部位であるピリジン窒素の近傍に不斉置換基を持たないにもかかわらず高度な不斉誘導を起こす。しかし本触媒はCPPとは異なり水素結合駆動ではなくπ-π相互作用を基調とした不斉誘導機構を持つ。この知見を元に2つの官能基側鎖を持つ新世代の不斉求核触媒を設計し、4-ヒドロキシ-L-プロリンを出発物質としてそのコンビナトリアル合成を行なった。2つの官能基側鎖の内ひとつはπ-π相互作用により基質の接近方向を制御し、もうひとつは基質の運搬や認識に関ると想定した。本触媒はメソージオール類の不斉非対称化において従来の触媒よりも優れた化学選択性とエナンチオ選択性を示した。またこれらの触媒を用いてアミノ酸混合物を基質とする配列特異的ペプチド結合形成を検討した結果、トリプトファンに特異性を示すという予備的知見を得た。
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