本研究では、新規な水溶性ポルフィリンを設計・合成し、様々な塩基配列を持つDNAに対する切断活性の測定を通して、塩基配列特異的な遺伝子切断試薬を開発することを目的とした。まず、核酸塩基に対する特異性を向上させるため、GC塩基対に親和性の高いアクリジンを持つポルフィリンを合成した。この化合物は良好な水溶性を示し、可視吸収スペクトルの変化から、DNAに高い親和性を持つことが分かった。アクリジンとポルフィリンをつなぐリンカーの長さを変えた各種誘導体を合成し、DNAに対する結合特性を調べた。その結果、これらの化合物はアクリジン部分でDNA塩基対間に挿入結合し、ポルフィリン部分は溶媒側に位置することが分かった。また、リンカーの炭素鎖が6のとき、最大のDNA光切断活性を示した。 転写因子をはじめとするいくつかのタンパク質は塩基配列特異的にDNAと結合する。また、鉄ポルフィリン錯体であるヘムは活性酸素の生成を触媒する。これらの特性に基づき、ヘムタンパク質を利用した酸化的DNA切断試薬の開発を試みた。まず、ヘムを含む転写因子であるCooAを遺伝子全合成によってクローニングし、大量発現系を構築した。また、4本ヘリックスからなるシトクロムb562の部位特異的変異体を作成した。本タンパク質は6配位型構造をとるため、まず活性酸素生成の場となる触媒ポケットの構築を行った。軸配位子のひとつであるMet7を側鎖体積の小さいGlyに置換したところ、ヘムが脱離することが分かった。そこで、さらに4位と8位のGlu残基をSerに置換することにより、脱離を抑えることに成功した。次に、高い酸化活性の発現を期待して、他方の軸配位子であるHis102をCysに置換した変異体を作成した。この変異体も安定に錯体を保持し、かつ酸素の活性化を触媒する還元型においてもCysを軸配位子として持つことが明らかとなった。
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