研究概要 |
病態下において、肝細胞で産生誘導された一酸化窒素(NO)が肝障害の促進あるいは保護のいずれの方向に働いているかは不明である。しかし、肝臓に加えられた障害因子(酸化ストレス、出血性ショック、エンドトキシンショック、四塩化炭素、エタノール)によって、NO効果は細胞毒性、細胞保護のいずれかに向かうものと考えられている。私達は肝細胞の初代培養系を用いて、インターロイキ1β(IL-1β)誘導性の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)に影響を与える因子の研究を行い、今年度は以下の成果を得た。 1.肝部分切除後の残存肝におけるiNOS/NO産生誘導は肝障害を促進する(J Hepatol 1999;30:944)。肝切除は肝細胞のNO産生誘導を正常時の2倍以上に促進するとともに、そのミトコンドリアのredox state(NAD+/NADH)を減少させた。その結果、細胞内のATPレベルは著しく減少した。このNO産生誘導の促進によるミトコンドリア機能障害は術後感染などによる肝機能不全の一因と考えられる。 2.免疫抑制剤FK506はiNOS誘導を転写レベルで阻害する(J Hepatol 1999;30:1138,Transplant Proc 1999;31:804)。FK506はiNOS誘導の転写因子NF-kBの活性化を阻害してiNOS誘導を抑制した。同じ免疫抑制剤シクロスポリンA(CsA)にはこの効果は認められなかった。肝移植後の免疫抑制剤投与において、初期肝不全(primary liver dysfunction)の発生と血中NOレベルがFK506においてCsAよりも有意に低いことが報告されている。FK506効果のメカニズムがその本来の免疫抑制に加えてiNOS誘導の阻害にあることを示唆する。
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