研究概要 |
本研究者はヘムの反応特性に関し開発した唯一の安定型ヘムーチオレート錯体(SR錯体)を開発してきたが、本年度はこの配位構造と一酸化窒素(NO)との配位化学を世界に先駆けて詳細に検討することに成功した。チオレートアニオンとNOとは本来反応性が高いため従来の合成ヘムチオレート錯体ではその反応のために錯体形成がうまくなされたいなかったが、SR錯体は硫黄原子が立体的に保護されているために可逆的な錯形成を行い得た。生成したNO-ヘムーチオレート錯体は、その共鳴ラマンスペクトルやFT-IRスペクトルが天然の酵素のNO錯体のものと近いものであり妥当性があると考えられた。特に錯形成定数を求めることができ、その値はイミダゾール配位ヘム(2価)の値にくらべ3万分の1の小さな値であり、顕著な軸配位子効果が認められた。NO合成酵素においては、自身が合成するNOが金属への配位力が強いのにも関わらず、配位阻害をさほど起こさず合成できることについては議論になっていた。本研究でチオレート配位であることにより鉄へのNO配位力は他の錯構造より大きく弱められていることがわかり、議論に対して強い示唆を与える結果と考えている。 次にヒトのiNOS,nNOS,eNOSすべてのNOS isozymeのSf9細胞での発現に成功したことからこれらの酵素をアッセイに用い、ヒト酵素での高い選択性と活性を有する阻害剤を求めて構造活性相関を行った。その結果ジペプチドL-イソチオシトルリニルL-アミノ酸がヒトiNOS選択的に酵素阻害を起こすことを見いだした。開発した阻害剤はヒトeNOSに対してはほとんど阻害活性を示さず選択性が高いことが示された。これによりヒトiNOSの基質結合部位のC末部位に一定の疎水空間が存在するという本研究者の作業仮説を裏付ける結果が得られた。本知見は有効なNOS阻害に基づく治療薬設計の一指針になると考えられる。
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