研究概要 |
(1)AhRによるシグナル伝達機構の解析 AhRにはNLSの他に核外輸送を仲介しているNESが存在し、リガンド依存的、シグナル依存的に細胞質・核間をシャトルするタンパク質であることが予想された。細胞融合した多核細胞を用いて、AhRがシャトルする性質を持つことを証明した。同時に、AhRの核外輸送がその標的遺伝子の一つであるCYP1A1の発現に必要であることを示した(J.Biochem.,127,503-509,2000)。また、AhRの核移行、核外移行によるシグナル伝達メカニズムについての研究の一環としてAhRに存在している2カ所のLxxLLモチーフ(NR box)の機能について明らかにした(J.Biochem.,131,79-85,2002)。AhRのNR box 1はNLSとNESの間に位置しており、このモチーフに変異を導入するとリガンドが存在しなくてもAhRは細胞質から核へと移行することが観察された。従って、AhRは単にHsp90などの因子と結合することにより細胞質に繋留されているのではなく、核からのNESによる積極的な排出やNR boxを介してのAhRの分子間・分子内相互作用などの複合的メカニズムによる動的なバランスの上で細胞質に存在していることが示唆された。 (2)AhRの生理的機能の解明 AhRの生理的機能についてはその生理的リガンドが不明なため現状では明確にされていない。AhRの細胞内分布がどのような生理的状態で変化し、その転写機能に影響を与えるかについてダイオキシンの標的組織であるケラチノサイト細胞(HaCaT)を用いて解析した。その結果、(i)AhRはHaCaTの細胞密度により細胞内局在が変化すること、(ii)細胞密度によりAhRの転写活性は変化し、その局在性に依拠すること、(iii)AhRのリガンド依存的核移行はNLSのリン酸化により阻害されること、(iv)AhRの核外輸送活性はNESのリン酸化により阻害されることが明らかになった。現在、細胞密度の変化によるAhRの分布の変化の分子機構について解析をすすめている。
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