研究概要 |
中枢性疾患に対する合理的な薬物治療方針の背景となるべき薬動力学的な情報は極めて不足している.そこで本研究では,モデル疾患として神経変性疾患であるパーキンソニズムに着目し,その定量的薬効評価法の確立を目的とした. 動物実験によるパーキンソニズム誘発性の評価:ドパミンD1受容体遮断薬であるSCH-23390,およびD2受容体遮断薬であるネモナプリドをマウスに腹腔内投与後,錐体外路症状のマーカーとしてカタレプシーの強度を測定した.その後直ちに[^3H]SCH23390または[^3H]ラクロプリドを腹腔内投与し,線条体における両受容体のin vivo結合占有率(φ)を求めた(in vivo逆滴定法).D1,D2受容体占有率とカタレプシー強度の関係は,三元複合体モデルにより解析した.続いて,mACh受客体の結合占有率を[^3H]QNBを用いて同様に測定した.このようにして,特異的リガンドを用いて構築した「D1,D2受容体占有率によるカタレプシーの予測検量面」と「mACh受容体占有率による補正」を用いる手法により,カタレプシー強度が予測可能となった. ヒトにおけるパーキンソニズム誘発予測:ヒトにおける種々の薬物の血漿中濃度(Cp)と蛋白非結合型分率(fu)の文献値より,臨床用量における脳内非結合型薬物濃度の推定値C_<f,brain>を算出した.D1,D2およびmACh受容体に対する結合阻害定数(Ki値)は,in vitro実験により求めた.続いて,得られた各受容体に対するKi値とC_<f,brain>から,式φ=C_<f,brain>/(C_<f,brain>+Ki)を用いてφ値を算出し,ヒトにおけるカタレプシー強度評価値を算出した.この値をハロペリドール常用量投与時のカタレプシー誘発強度値に対する相対値C_<relative>に変換し,これと各薬物の錐体外路症状の発症率との関係を検討したところ,両者間に良好な関係か認められた. 結論として,今回構築した方法により,薬剤性パーキンソニズムの誘発危険度を各薬物の体内動熊とドパミンおよびムスカリン受容体に対する親和性から予測可能であることが示された.
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