本研究は、肝臓での炎症の遷延化過程に関与している内因性因子を同定するために、種々のマウスの肝障害モデルの分子病理学的解析を行い、以下の研究成果を得た。 1)インターフェロン(IFN)-γが炎症性サイトカイン産生と炎症性細胞の浸潤を制御することを通して、Propionibacterium acnes (P. acnes)にて感作後のリポ多糖類投与による急性肝障害ならびにアセトアミノフェン投与による急性肝障害の発症過程に、垂要な役割を果たしていることを証明した。 2)四塩化炭素反復投与による肝線維症の発症過程で、IL-6は線維化過程の促進に働く一方で、肝細胞の血清蛋白産生能の保持の両面に働くことを示唆する結果を得た。 3)Dimethylnitrosamine反復投与時、TNFレセプターp55を介したシグナルによって、クッパー細胞・伊東細胞の集積が起き、その結果線維化が生じる可能性が示唆された。 4)脾臓内への腫瘍細胞接種によっておきる肝転移過程において、肝臓内でのTNF-αの発現増強が起き、その結果起きる肝類洞血管内皮上でのVCAM-1発現の増強が、肝転移巣形成過程に密接に関与していることが示唆された。 5)ヒト肝癌組織では、肝癌組織内で産生されるIL-1がautocrineあるいはparacrine的にCCケモカインの一つであるCCL3の産生を誘導し、これが肝癌細胞などで恒常的に発現しているCCL3の特異的レセプターであるCCR1に作用する可能性が示唆された。 これらの炎症モデルの発症と遷延化に関与している内因性因子を検索するために、炎症モデルでの野生型マウスと種々の遺伝子欠損マウスとの間での遺伝子発現パターンの差異を検討している。
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