研究概要 |
本年度の前半は,遊離アミノ酸の測定精度およびデータの再現性をしらべた。併せて,カラムの安定性をしらべた。また,筋内のリソゾームの調製法を再検討し,この標品の可溶化について検討した。その結果,1)三種類の遊離アミノ酸(アンセリン:ANS,カルノシン:CAR,3-メチルヒスチジン)の各保持時間と濃度は変動係数にして0.1%以下で測定できること,2)1本のカラムで約100〜120回測定できること,3)リソゾーム膜の可溶化にはtriton X-100を用いることが妥当であること,4)このリソゾーム内のセリンプロテアーゼに属するcathepsin BとJ(C)の活性が安定なこと,等が明確となった。次に,ラットに合成グルココルチコイドとハイドロコルチゾンを10日間投与した後,ヒラメ筋とヒフク筋の遊離アミノ酸濃度を測定した。その結果,二種類のグルココルチコイドを投与したラットの筋内CAR濃度は対照より有意に低かったが,筋内ANS濃度は有意な変化がみられず,筋内の遊離アミノ酸ごとに異なった応答性がみられた。引き続き,ラットを懸垂させて筋に力学的負荷を無くし,さらに運動を制限することによって萎縮させたときのヒラメ筋およびヒフク筋における遊離アミノ酸濃度およびcathepsin BとJ(C)の活性を測定した。その結果,懸垂によってラットの筋を萎縮させると,筋内CAR濃度は対照より有意に低かったが,ANS濃度は萎縮筋で有意に高かった。また,cathepsin BとJ(C)活性は,懸垂によって有意に上昇した。これらの結果より,筋内CAR濃度は,懸垂またはグルココルチコイド投与で萎縮させても明らかに低下する。しかし,ANS濃度は懸垂で上昇,グルココルチコイドで変化なしと,筋萎縮を惹起させる方法によって応答性に差が認められる。また,懸垂に伴って萎縮した筋内ではリソゾーム由来のタンパク分解系の促進作用があるものと推定される。
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