運動中に発生する突然死の多くは、不整脈を誘発させる自律神経活動の異常が原因であることを考慮し本研究では、運動中の心臓自律神経活動の連続評価によりより安全な運動処方の確立を目指すものである。平成12年度の実験では、漸増運動負荷試験中の心臓自律神経活動動態、血圧・循環調節ホルモン、エンドセリンなどの動態を明らかにし、心臓副交感神経活動を基準にした、「安全運動閾値」の測定法を確立することを目的として実験を行なった。実験では健常者(男子学生51名)のみでなく、心不全患者(n=13)を対象に比較検討した。健常者及び心不全患者を対象として心電図を連続測定し、心臓の収縮1拍あたりの心拍変動パワー(ms^2/beat)を求め、漸増運動負荷試験中の心臓自律神経活動を評価した。さらに、心拍変動パワーが収束する点を心臓自律神経活動が減衰する点として、安全運動閾値と定義した。健常者51例全員で心臓自律神経活動を考慮した最適運動強度の設定が可能であった。一方、心不全患者では、13例中8例で、安全運動閾値設定が可能であったが、5例では心拍変動パワーの収束が認められなかった。この5例の年齢や全身持久力に有意な差はなかったが、収束した13例に比べ、安静時心臓自律神経活動や心機能の低下が認められた。以上の結果から、本研究で開発した心拍変動パワー解析法により、簡便に心臓自律神経活動を基準とした安全運度閾値の設定が可能となった。また、心不全患者においては、収束・非収束の判定が心機能を評価する上で非常に有用であることが示唆された。
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