着衣の湿潤感の感知構造とその中枢・自律神経系への影響を探るため、本年度は、(1)衣服素材の物性測定、(2)着衣の熱・水分特性評価と着用心理反応の測定、(3)全身性・局所性の湿り刺激に対する自律性反応と人体内分泌反応の測定、(4)素材の物理量と主観的な心理量、人体の生理反応との対応についての解析とまとめ、並びに成果の発表、を計画した。これに対し、まず着衣の皮膚感覚の自律神経系への影響を探る実験として、湿潤感、触覚や圧覚の異なる実験衣服を製作し、KES試験機を用いた着衣素材物理特性測定を行うとともに、着用時の心理反応と心拍変動測定を行った。その結果、ざらざらした表面構造を持つ衣服、強い圧迫を感じる衣服、湿潤を感じる衣服を着用し不快感を生じる場合には、副交感神経活動が低下することが明らかとなり、その成果をICEE第9回国際環境工学会(ドイツ、ドルトムント)にて発表した。次に発汗サーマルマネキンを用いて、不透湿フィルムに3段階の穿孔を施したワンピース型衣服の熱移動特性を評価し、その衣服を着用した時の心理評価と衣服内気候の測定を行った。また全身性湿り刺激として人工気候室内に被験者12名をセミヌードで暴露した時の異なる湿度環境と不透湿フィルム服の穿孔の有無が、自律神経活動と内分泌反応に及ぼす影響を測定した。その結果、心拍変動や唾液分析の結果は他の要因に影響されやすく有意差はなかったものの、環境または衣服内気候が高湿度条件の場合には、交感神経活動が低下し、唾液中のストレスホルモンといわれるコルチゾール、分泌型IgAともに減少し、同時に尿中アドレナリン分泌量が低下する結果となり、湿潤感が人体へのストレッサーとなることが示唆された。これらの成果は、2001年5月第53回日本家政学会(岡山県倉敷市)で発表する予定である。
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