湿潤感は着衣の快適性研究において極めて重要である。本研究の目的は着衣による湿潤感の感知構造を探り、湿潤感の中枢・自律神経系への影響を探ることにある。主たる結果は以下のようである。 1)全身の湿潤感を左右する重要な要因としては、湿度そのものよりも湿度によって影響を受ける皮膚蒸散量並びに人体-環境間の体熱平衡から求められる蒸発放熱量であることが明らかになった。 2)カプセル又はポリエチレンフィルムを用いた閉塞性の局所湿潤負荷装置による実験の結果、人体の局所湿潤感を左右する要因は、皮膚からの水分蒸発に伴う皮膚温変化と皮膚水分に対する触感量の複合であることが示された。 3)衣服内湿度の生理影響を調査するために、異なるサイズの孔を穿ったポリエチレンフィルムを用いて実験衣服を製作、その物性値及び熱・蒸発熱抵抗をKES法並びに発汗サーマルマネキンを用いて評価した。穿孔の有無、穿孔サイズにより衣服内湿度および皮膚濡れ状態に差を生じたので、これを以下の実験に供した。 4)心電図R-R間隔のパワースペクトル分析により自律神経の活動レベルを測定した結果、衣服内の湿度が高いほど副交感神経活動の指標HF/(HF+LF)が低下し、交感神経活動の指標LF/HFは上昇した。 5)国際10-20法による13部位の脳電図並びに脳波CNVを測定した結果、衣服内湿度が上昇するにつれて脳波のα波含有率、β波含有率ともに少なく、CNVでは振幅の抑制が認められた。 6)衣服内湿度の内分泌反応への影響を調べた結果、衣服内湿度が高いほど唾液中のストレスホルモンといわれるコルチゾール、分泌型IgAともに増加し、尿中アドレナリン分泌量が低下する結果となった。 以上の結果は、すべて衣服内の湿度上昇が心理的不快感のみならず、自律神経活動、内分泌反応、中枢神経活動のいずれにも負の負荷を与えることが生理学的に示唆された。 本研究成果の一部は平成12年9th国際環境工学会(ドイツ)において発表した。
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