研究分担者 |
稲葉 政満 東京芸術大学, 美術研究科, 助教授 (50135183)
佐藤 一郎 東京芸術大学, 美術研究科・美術学部, 教授 (30143639)
坂本 一道 東京芸術大学, 美術研究科・美術学部, 教授 (50107330)
神庭 信幸 東京国立博物館, 学芸部, 保存修復管理官(本学非常勤講師) (50169801)
伊藤 由美 高澤学園, 創形美術学校・修復研究所, 副主任(本学非常勤講師)
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研究概要 |
本研究は、東京芸術大学大学美術館の収蔵作品の中から、東京美術学校西洋画科教官を含む明治時代後期の油画作品を対象として作品の観察をおこない、作品の経年変化、保存修復状態を調査するとともに、黒田清輝をリーダーとするいわゆる「外光派」の油画技法や材料、東京美術学校教育の理念や実際の全貌を、絵画技法材料、絵画保存修復の立場から解明しようとするものである。 作品の観察は、実作品の概観観察に加えて、可視光線写真(ノーマル写真、側光線写真、顕微鏡拡大写真)、紫外線蛍光写真、赤外線写真、X線写真による光学調査をおこなっている。一昨年の調査では新たに加えた作品群をX線撮影し作品の技法、材料の概要を調査することができた。また、昨年度は本研究の助成により、実体顕微鏡を購入したことで作品観察の際、より精密な調査が可能になった。さらに今年度の調査では、分析により画布の地塗塗料成分が明らかになったため、材料、技法に関する詳細な調査結果が得られた。 本年度調査した作品は次の11点である。1.湯浅一郎「漁夫晩帰」2.小林萬吾「農夫晩帰」3.白滝幾之助「稽古」4.満谷国四郎「車夫の家族」5.満谷国四郎「女ふたり」6.和田英作「渡頭の夕暮」7.和田英作「少女新聞を読む」8.和田英作「思郷」9.中沢弘光「少婦」10.山本森之助「琉球の燈台」11.赤松麟作「夜汽車」。 以上のカンバスの白色塗料の分析を行った(6,9,10除く)。鉛白を主成分とするものは、2,7,3,4,8。亜鉛華を主成分とするものは7,11。その他1,5(鉛白と亜鉛華)であった。 鉛白は油絵具の白として、またカンバスの地塗塗料として、昔から使用されてきた。固着力もあり、上に塗った絵具ともよくなじんで剥離をおこさない特徴がある。 亜鉛華は、亀裂や上層に塗った絵具が剥離しやすい欠点が指摘されている。このため現在はカンバス塗料としては使用しない。しかるに7,11は亜鉛華であり、絵具層の固着状態は極めて良好である。この秘密はどこにあるのか、新しいテーマの発見があった。
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