研究課題
基盤研究(B)
本研究は、東京芸術大学大学美術舘の収蔵作品の中から、東京美術学校西洋画科教官を含む明治時代後期の油画作品を対象として作品の観察をおこない、作品の経年変化、保存修復状態を調査するとともに、黒田清輝をリーダーとするいわゆる「外光派」の油画技法や材料、東京美術学校教育の理念や実際の全貌を、絵画技法材料、絵画保存修復の立場から解明しようとするものである。作品の観察は、実作品の概観観察に加えて、可視光線写真(ノーマル写真、側光線写真、顕微鏡拡大写真)紫外線蛍光写真、赤外線写真、X線写真による光学調査を行っている。今回の研究結果が加わることによって明治前期から後期にかけての調査研究がまとまったことになる。その結果、以下のことが分かった。作品の分析などの結果判明したことは、亜鉛華は亀裂や上層に塗った絵具が剥落しやすい欠点が指摘されているが、亜鉛華を主成分とする地塗の作品が存在しており絵具層の固着は良好であった。そのため、その理由がどこにあるのかという新たな研究テーマが生まれたこと。また、紫外線蛍光写真が、鉛白と亜鉛華の使用併用を明らかにしそれらの分布を判断するのに有効であることが分かった。調査全体をとおして判明したことは、正当な油画技法の導入に力点がおかれていた明治前期と比較して、明治後期以降は「表現」を重視するため、絵画技法、絵画材料を軽視する傾向が見受けられる。また、ヨーロッパの新しい美術運動の移入などに追われたため、油画の材料、技法に対する積極的な探究がおろそかになったということであった。