本研究では、古代日本の遺構から出土した動物遺体の遺伝子DNAを調べ、家畜等の伝播経路について有力なデータを得ることを目的としている。古代の動物遺体のDNA分析においては、DNAの劣化が進んでいること、入手できる試料量が少ないこと、細菌やカビ、人間などの現世の生物のコンタミネーションを避けられないなど制約がある。研究代表者らはこれまでの研究において、古代試料中に含まれる細菌やカビなどの汚染微生物の遺伝子の中から目的の生物種の遺伝子を単離するための方法の確立に取り組んできた。本年度は、引き続き古代試料からDNA増幅を試みた。今回の資料は、アクリル樹脂による含浸が行われたもので、条件を検討しつつ何度かDNA抽出、増幅を行ったものの、良好なDNA増幅は得られなかった。これまでに、古代試料に含まれる色素がPCRによるDNA増幅を阻害する場合や、博物館などで行った保存処理(樹脂含浸や、化学薬剤による燻蒸など)が、DNA解析に悪影響を及ぼしていることが疑われる場合があったため、DNA解析を困難にする要因を検討した。その結果、いくつかの殺虫・殺菌燻蒸剤による資料の処理が、資料のDNAを損傷し、抽出されたDNAの切断、ひいては著しい低分子化をひきおこすことが明らかとなった。本研究で主に扱ってきた毛や毛皮などでは、もともとDNA残存の可能性が低いものが多く、DNAに影響する薬剤での保存処置は、古代試料のDNA解析には壊滅的なダメージをひきおこすものと考えられる。従って、DNA解析を目的とする資料の保存上の取り扱いもきわめて重要であると考えられる。
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