研究概要 |
理論およびシミュレーションによるプラズマの振る舞いの予測はさまざまな条件下での実験結果の予測やプラズマプロセスなどへの応用において役立っているが,予測可能な場合には限界がある。主な制約は高温・高密度における圧力電離などの,量子論が関係する物性についての知見の不足である。これはプラズマ物理の大きな課題であり,発展の著しい超高強度・超短パルスレーザーの加工・粒子源・光子源への応用においても重要な情報である。本研究は不均一や界面を扱うことのできる規模の計算機シミュレーションを量子的を考慮して行う方法を展開して,この課題を解決することを目的としている。 1.水素プラズマ(陽子・電子混合系)に対して,電子系の自由度を局所密度として,Car-Parinello法により陽子の運動を追いながら電子も緩和させる密度汎関数分子動力学法の計算コードを開発した。これに基づいて静的・動的物性を解析し,陽子の2体分布関数,拡散係数,速度自己相関関数,密度揺動スペクトルなどが第1原理による結果と良く一致することを確かめ,この計算法の有効性を示した。 2.1の方法で,大規模化が可能であることを,PCクラスターを用いて実証した。1000から10000粒子の系に対しては十分実用的なCPU時間でシミュレーションが可能であることが示された。 3.電子を量子論に基づいて扱う方法で1.と相補的なものとして,電子が原子に束縛された状態を出発点とするタイトバインディング法があり,低電離の場合をシミュレートするのに有効であると期待される。タイトバインディング法による分子動力学シミュレーションのコードを開発し,具体例に適用した。 4.さらに大規模化するには,量子論とは別の困難である,クーロン相互作用の長距離性の処理が必須である。このために,高速多重極展開法をPCクラスター向けに並列化した計算コードを開発した。さらに,量子系を模擬する古典荷電粒子系である湯川系に適用し,大規模系での有効性を確認した。 5.高速多重極展開法を並列化した計算コードの具体的な応用例として,「荷電クラスターがどれだけ大きければ内部構造が無限系と同じになるか」,という問題に解を与えた。開発した計算コードの有用性はこの例によっても示された。
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