ジルカロイ-2は高温水により酸化される際に水の解離により発生する水素を酸化膜を通して吸収する特性があり、ジルカロイに吸収された水素量が多くなると水素脆性などを引き起こすため、その吸収量の低減化が求められている。しかしながら、酸化膜中の水素の輸送経路は必ずしも明確にされておらず、水素吸収低減化の指針を得るためにはその輸送経路の特定が焦眉の問題であるとされている。水素の輸送経路の特定が難しい原因として、固体中の水素原子の空間分布を測定する機器分析としては走査型二次イオン質量分析計しか利用できず、しかもその分析感度および空間分解能があまり高くないことが挙げられる。そこで、本研究では水素同位体として放射性のトリチウムを利用して、ベータ線によるミクロオートラジオグラフを行い、水素の輸送経路を調べた。実験の詳細および得られた主な成果は次の通りである。 1気圧723Kの水蒸気中で熱処理の異なるジルカロイ-2を酸化した後、陰極電解法を用いてトリチウムを導入し、生成したジルカロイ酸化膜中のトリチウムの分布状態をトリチウムミクロオートラジオグラフの手法に基づき走査型電子顕微鏡を用いて観察した。これらの実験結果より、以下の結論を得た。 (1)水素の輸送経路は主としてジルコニア中の粒界であるが、酸化膜中に存在する金属間化合物が水素の輸送経路として重要な役割を果たす。 (2)熱処理条件により水素吸収量が大きく変化するのは、金属間化合物の粒径が熱処理条件に大きく依存しているためである。
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