研究概要 |
原爆被爆者の高令化に伴い、骨髄異形成症候群(MDS)の増加がみられているが、当血液内科において過去15年間に診断されたMDSの病型診断を確定し、個人線量は当研究所の開発したABS93Dを用いてCox比例ハザードモデルにより統計学的解析を行った。その結果、個人被爆線量が得られたMDS例は26例であり、被曝線量反応関係を明らかにした。すなわち1 Sv被爆の0 Sv被爆に対する相対リスクは2.4であり、被曝線量反応関係に影響する因子として、被爆時年令を明らかにした。 被爆者MDSの遺伝子レベルでの異常を明らかにするため、分化型急性骨髄性白血病の原因遺伝子として同定され、二次性白血病にも関与している可能性が指摘されている転写因子AML1遺伝子に注目し検索をすすめた。AML1遺伝子内のラントドメインの変異をPCR-SSCP及び塩基配列決定により検索したところ、非被爆者MDSでは74症例中2例(2.7%)に変異が認められ、これまでの報告と同程度の頻度であった。しかし、原爆被爆者で低線量被曝を受けたと推測されるMDSにおいては、13症例中6例(46%)と高頻度に点突然変異が認められた(ミスセンス3例、ノンセンス1例、サイレンス2例)。これらの点突然変異体について二量体形成能、DNA結合能、転写活性能についての解析を実施した。これらの結果より放射線関連MDS/AMLにおいてAML1の点突然変異が関与していることが明らかになった。 次にMDSの病態には遺伝的不安定性が関与していると考えられるが、患者の単核球について、4種類のDNA修復酵素の遺伝子(ERCC 1,ERCC 3,ERCC 5,XPC)発現を検討したところ、低下〜消失した症例を高頻度に認め、MDSの病態に関与することが示唆された。
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