20員環ラクタム及びアミノ糖を構造の特徴とするビセニスタチン(VS)は、マウスにおいて移植ヒト大腸ガンの増殖を抑制する注目すべき抗生物質である。その化学構造は共役ジエン系を二組含むものの、他に特別の官能基を有するわけではなく、その活性発現機序は非常に興味深い。細胞毒性を指標に活性発現に果たす有意構造を抽出すべく検討した。先ず昨年の研究で明らかにしたVSの活性発現に重要なアミノ糖部について改変を行った。ジアステレオ異性体に関して3'-エピマーはVSと同等の活性を示したが、4'-エピマーは活性がやや低下した。これは、水酸基ではなくアミノ基の分子内における相対的位置が重要であることを示唆する。合成したα-アノマーは何れも活性が低下し、またアミノ基のアルキル化またはアシル化では置換基の嵩高さに比例して活性が低下することがわかり、上記の考察を裏付けた。さらに、糖部への多様な修飾は、溶解性の改善には繋がるものの必ずしも活性を増強しないことが明らかになった。ラクタム構造に関しては、その簡略化非環状モデルとして合成したゲラニルビセニサミニドには活性がほとんど無かったが、その水素化物にVSにならぶ顕著な活性を見出し、アグリコン部には必ずしも巨大環状構造を必要としないことを見出した。VSアグリコン部の配座を考察すべくアミド窒素にメチル基を導入し、NMRデータと分子力場及び分子軌道計算によりラクタム構造の配座を検証した。天然型のS-トランス配座からS-シス配座への転換にともない、細胞毒性が1/40に低下したことから、アグリコン部の適正なサイズと分子構造が活性発現に重要であることを明らかにした。さらに、蛍光標識による標的細胞構造の探索を目的として、ビセニサミンにピレン環を有するアシル基を導入した誘導体8種を合成した。さらにアミド窒素を足がかりにした蛍光性官能基の導入を進めている。
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