研究概要 |
造血幹細胞増殖を目的として、様々なサイトカインを組み合わせた培養系が試みられ、gp130が重要な役割をはたすことが明らかとなっている。我々は、これまでhGM-CSF受容体α,β鎖細胞外領域に、mLIF受容体β鎖、mgp130細胞内領域を融合させたキメラサイトカイン受容体を導入したトランスジェニックマウスを用いて、lineage-,Sca-1+,c-kit+骨髄細胞が、種々のサイトカインの組み合わせの中でhGM-CSF+SCFに最もよく反応してCFU-mixを効率よく増加させることを報告した。今回、我々はさらに純化したlineage-,Sca-1+,c-kit+,CD34-骨髄細胞を用い、細胞1個のレベルでサイトカインに対する反応性を検討した。サイトカイン単独に対しては増殖効果は認められなかったが、hGM-CSF+SCF刺激においてクローン性増殖が顕著に認められた。増殖した細胞のコロニー形成能を検討したところ、hGM-CSF+SCF刺激においても最も効率よいCFU-mixの増加を認めた。lineage-,Sca-1+,c-kit+,CD34-骨髄細胞におけるキメラサイトカイン受容体、gp130,IL-6R α,IL-11R α鎖の発現をRT-PCRで確認したところ、キメラサイトカイン受容体の発現を認めたものの、gp130,IL-6R α,IL-11R α鎖の発現は確認できなかった。これらの結果より、gp130,IL-6R α,IL-11R α鎖の発現を認めないlineage-,Sca-1+,c-kit+,CD34-骨髄細胞においてキメラサイトカイン受容体を発現したことが細胞増殖、CFU-mix増加の1原因と推測された。現在hGM-CSFにより増殖した細胞がstem cellか否か移植実験にて検討中である。 gp130を介するシグナルはSTAT3とMAPkinaseの活性化の2系統に分岐する。我々はgp130を介するシグナルを詳細に検討するためSTAT3とエストロゲン受容体(ER)のリガンド結合領域との融合蛋白質(STAT3-ER)を用いSTAT3をコンディショナルに活性化するシステムを開発した。このシステムを用いることにより、STAT3の活性化のみによってES細胞の自己複製能と多分化能が維持されることを明らかにした。現在、STAT3-ERを発現するトランスジェニックマウスを作製しており、ES細胞と同様にSTAT3-ERを用いて血液幹細胞の自己複製が可能か否か検討予定である。
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