研究概要 |
全ての真核細胞は固有の形をしており、細胞の形は生物の機能と密接に関係している。我々は今回、真核細胞のモデル系として知られる出芽酵母を用いて、低分子量GTPaseRho1pという多機能シグナル伝達因子を中心に「細胞の形態形成」の研究を行った。特に、Rho1pの標的酵素のひとつである細胞壁合成酵素がダイナミックに細胞膜上を移動し、アクチンの重合と連動して出芽部分の細胞膜上を移動することを発見した。グルカン合成酵素が細胞膜上を移動できなくなると均一な細胞壁を形成できなくなり、異常な細胞壁を形成することを見い出した。こうして、細胞壁合成の場が細胞膜上を移動していることを初めて証明し、その動くことの生理学的意義を示すことができた。一方、細胞壁合成酵素の上流で働く制御因子として、Rho1p修飾酵素、スフィンゴ脂質、膜内在性の新規タンパク質等を解析し、これらが1,3-β-グルカン合成酵素の活性調節に直接関与することを明らかにした。さらにRho1pの多機能性の遺伝学的実証を、遺伝子内相補という遺伝学的な現象の解析から行った。rho温度感受性変異株は2種類あり、rho1AグループはPkc1pの活性化に、rho1BグループはFks1p/Fks2pの活性化にそれぞれ欠損を持っていることが明らかになった。以上のように、Rho1pという分子スイッチが多機能タンパク質として細胞の形態形成に必須な働きをしている点に注目し、真核細胞に普遍的な細胞形態を決定する分子機序を解明することに一部成功した。
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