タンパク質は、構造変化をしながら機能している。構造変化の大小には違いがあるが、構造変化(構造ゆらぎ)がタンパク質の機能に本質的な役割を果たしていることは間違いない。また、機能に関係のない構造変化も多く報告されている。このようなタンパク質の構造変化に関する研究の進展に合わせて、私たちは膜タンパク質の構造変化に関する実験的・理論的研究を進めてきた。 実験的な研究では、典型的な内在性膜タンパク質のバクテリオロドプシンを試料とし、温度変化と光照射という2つの条件を組み合わせて、タンパク質の構造安定性のメカニズムを調べた。常温および高温での光照射による構造変化には共通の原因が働いていると考えられる。常温では、光照射によって起こるバクテリオロドプシンの構造変化に対して復元力が働き、光サイクルがまわる。これに対して、高温では復元力が働かず一方的な構造変化となってしまう。そこで、様々な温度での実験を行い、バクテリオロドプシン分子の極性部分に原因があるらしいということが分かってきた。 他方、理論的な研究では、バクテリオロドプシンを7本のロッドの束とみなし、それらの間に働く極性相互作用によって立体構造の予測を行った。極性相互作用に対するもっとも大きな寄与は荷電アミノ酸からのものであるが、バクテリオロドプシンの光中間体では荷電状態が大きく変わるアミノ酸がある。そのことを考慮して構造予測を行った結果、光中間体でロッドの傾きに変化が起こることが推定された。このことは粗視化した考え方をタンパク質に対して持ち込んだことによってはじめて可能となったものである。今後膜タンパク質に対して理論的な研究を進める上での基本的考え方が提示された。
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