研究概要 |
(1)走化性レセプターTcpはクエン酸と金属イオン-クエン酸複合体を別々の誘引物質として認識するという興味深い性質をもつ.このメカニズムを明らかにするための第一段階として,部位特異的変異導入を行い,クエン酸認識に関わる残基を同定した(Iwama et al.,2000). (2)走化性レセプターはpHや温度刺激も受容するという多刺激受容性をもつ.このメカニズムはわかっていないが,シグナル産生・制御機構と密接に関係しているはずである.面白いことに,互いに相同なTarとTsrは,細胞内pH受容に関して全く逆の性質を示す.例えば,pH低下をTarは誘引刺激,Tsrは忌避刺激と認識する.そこで,両者から様々なキメラレセプターを作製し,pH受容に関わる領域を決定した.現在さらに詳しく解析を進めている.温度受容能についても,温度上昇を誘引刺激と認識するTarおよび忌避刺激と認識するTapを用いて同様の実験を行っている. (3)走化性において適応(一定の刺激が続くともはや応答しなくなるという性質)は必須である.これは,菌が刺激の時間的変化を感じて,刺激の一様でない空間内を好ましい方向に移動するためである.適応はレセプターの可逆的メチル化によって起こる.主要なレセプターはC末端にメチル化酵素結合配列をもつ.この結合配列に様々な変異を導入して解析し,レセプターとメチル化酵素の相互作用について重要な知見を得た(Shiomi et al.,2000). (4)レセプターのリガンド結合能や細胞内局在を調べるため,Tsrのリガンド(セリン)結合部位をCysで置換し,SH基反応性蛍光試薬で標識した.現在標識の効率や特異性を上げるための検討を行っている. (5)多刺激受容を反映した試験管内アッセイ系の開発のための第一段階として,新たにレセプターの大量発現系を構築した.
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