研究概要 |
膜貫通型レセプターによるシグナル伝達のメカニズムを解明することは,現在の生物学の大きな課題の一つである.この点に関して最も解析が進んでいる大腸菌走化性レセプターを用いて,以下のような解析結果を得た. 【1】走化性レセプターはpHや温度刺激も受容するという多刺激受容性をもつ.このメカニズムは,シグナル産生・制御機構と密接に関係しているはずである. (1)走化性レセプターのうち,Tarは細胞内pH低下を誘引刺激として認識するが,Tsrは忌避刺激として認識する.そこで,両者から様々なキメラレセプターを作製し,pH受容に関わる領域を決定した.この領域内で側鎖の電荷が逆の3箇所に着目し,Tar上で電荷を逆転させた変異体を作製した.その結果,TarのR259残基がpH受容に決定的な役割を果たしていることが示唆された.(投稿中) (2)また,Tarは温度上昇を誘引刺激,温度低下を忌避刺激として感知する(温レセプター)が,Tapは同じ温度変化を全く逆の刺激として感知する(冷レセプター).キメラレセプターの解析により,膜外ドメインまたは膜貫通領域が温度受容に重要であることが示唆された.(さらに解析中) 【2】走化性において適応(一定の刺激が続くともはや応答しなくなる性質)は必須である.適応はレセプターの可逆的メチル化によって起こる. (1)メチル化酵素CheRは,レセプターのメチル化部位から離れたC末端配列NWETFに結合する.我々はすでにTarのW550残基をAに置換するとCheRとの結合が失われることを示している.この変異を抑圧するtar遺伝子内変異を単離し,解析した.(投稿中) (2)CheRの細胞内局在を調べるため,緑色蛍光タンパク質との融合タンパク質を作製した.その結果,CheRはレセプター依存的に細胞の極付近に局在することが示唆された.(さらに解析中)
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