研究概要 |
大腸菌やサルモネラ菌の走化性は,シグナル伝達機構を分子レベルで解析する上でよいモデル系である.膜貫通型レセプターが,誘引・忌避物質,pH,温度を感知し,ヒスチジンキナーゼCheAの活性を制御する.また,一定の刺激が続くと,レセプターの可逆的メチル化により,菌は適応する.本研究では,走化性レセプターの多刺激受容に着目した解析を行い,以下のような成果を得た.これらは,刺激の受容や適応の機構に迫るばかりでなく,シグナル産生・制御機構を解明する上でも重要な知見である.(1)レセプターTcpは,クエン酸と金属イオン-クエン酸複合体を別々の誘引物質として認識する.クエン酸認識に関わる残基を同定し(発表済),識別が異常になった変異体も得た(投稿準備中).(2)レセプターTarとTsrの解析から,機能不明であったリンカー領域がpH受容に関与することを示した(発表済).(3)レセプターTarとTapの解析から,膜貫通領域が温度受容に重要であることが示唆された(投稿準備中).(4)メチル化酵素CheRは,レセプターC末端配列NWETFに結合する.変異導入解析により,この結合が疎水性相互作用によることを明らかにした(発表済).さらに,NWETF配列の変異を抑圧する遺伝子内変異を単離・解析した(投稿中).(5)GFP融合タンパク質やS-S架橋を用いた解析により,CheRは,βサブドメインでNWETF配列と結合してレセプターに標的化し,N末端ドメインでメチル化部位(基質)を認識することを示した(投稿中).(6)部位特異的SH基修飾を利用してレセプターの誘引物質結合能を調べる系を開発し,誘引物質結合能はメチル化によりごくわずかしか低下しないことを示した(投稿準備中).(7)コレラ菌CheAホモログ3種の遺伝子をクローン化して機能解析を行い,CheA2のみが走化性に必須であることを示した(発表済).
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