蛋白質の非線形な運動を捉える試みとして、弱い摂動としての非線形運動の蛋白質におけるあり方を探る研究を行った。具体的には、非線型性の効果が抑えられている0K近傍でのミオグロビンのシミュレーションを行い、振動エネルギー緩和の様子を解析した。シミュレーションの手順は、0Kで、ある振動モードに初期運動エネルギーを与え、そのエネルギーがどのようなモードに移動していくかを見るというものである。その結果、非線型運動の基礎となるモードカップリングは、単純な低分子系と同じ3次のカップリングに基づいたフェルミ共鳴で記述できることが分かった。これは、運動エネルギーが移動していく先のモードが、(1)周波数の関係ω=ω1+ω2のようなフェルミ共鳴条件を満たす、(2)モードが立体構造上オーバーラップしている(これはそのまま3次のカップリング係数が大きいことと等価である)の2条件によって選択されていることからの知見である。このことは、蛋白質のような巨大な複雑系でも振動モードが独立なものとして振る舞っているという説明と等価である。さらに、4次のカップリングの解析を行い、ω1=ω2+αという共鳴条件によってスペクトルのブロードニングが起こるというところが、3次のカップリングと異なるところであることが、確かめられた。さらに現在、低振動のエネルギー緩和を解析するために、内部座標系による解析を進行させている。
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