蛋白質の非線形な運動を捉える試みとして、弱い摂動としての非線形運動の蛋白質におけるあり方を探る研究を行った。昨年度までは、非線型性の効果が抑えられているOK近傍でのシミュレーションを行ったが、今年度はより高温領域での振動エネルギー移動の研究を行った。シミュレーションの手順は、ミオグロビンに有限温度で、ある振動モードに初期運動エネルギーを与え、そのエネルギーがどのようなモードに移動していくかを見るというものである。有限温度であるために、初期状態に結果が大きく依存するために、500回のシミュレーションの平均をとった。その結果、OKとは異なり、有限温度では共鳴型のエネルギー移動は観測されず、3次以上のモードカップリングによるエネルギー移動が観測された。これは、共鳴型のエネルギー移動は大きなlag phaseを持つために、それlag phaseの間に励起しているモード間で、カップリングの程度に従って、エネルギーの散逸が完了してしまい、共鳴により移動すべきエネルギーが残らないためであると考えられる。この温度依存性のシミュレーションから、蛋白質に特有のガラス転移挙動が観測された。それは、170K近傍を挟んで、エネルギー移動の大きさが不連続的に大きくなることに現れている。これは、170K近傍で、他のconformational substateに移行することによって、モードの全体構造が変わることで、見かけ上カップリングの程度が増大したためであると考えられる。
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