本研究では、ロドプシン類の配向試料に対する偏光赤外分光を行い、これらの蛋白質が機能を発現する際の動的構造変化を明らかにすることを目指した。主として赤外分光法を用いた研究により、以下に示すような研究成果が得られた。 偏光赤外分光を用いて、我々はこれまでにないほどの高精度の測定系を構築し、これをバクテリオロドプシンの光異性化反応、プロトン移動反応に対して適用した。具体的には、異性化産物であるK中間体、プロトン移動前の状態であるL中間体、プロトン移動後の状態であるM中間体ともとの状態との偏光赤外差スペクトルを測定し、同位体標識試料や変異蛋白質試料を用いて振動バンドを同定した。異性化反応に伴う構造変化の解析の結果、水分子を含む水素結合ネットワークに大きな歪みが生じていることがわかった。さらにスレオニンの同位体を用いた実験によって、発色団から11Å以上離れた17位のスレオニンに水素結合変化が見られ、構造変化のための特異なチャネルの存在が明らかとなった。さらに、重水置換可能なO-H基をもつ89位のスレオニンは異性化によって水素結合が強くなるが、この水素結合はL、M中間体でも変わらないことがわかった。これは、89位のスレオニンがポンプのためのスイッチ部位を構成しないことを意味する実験事実である。 さらに塩素イオンポンプであるハロロドプシン、呼吸鎖に含まれるプロトンポンプであるオキシデース、細菌の光センサーであるイエロープロテイン、視物質の中で色覚を担う赤感受性色素(アイオドプシン)や緑感受性色素などの赤外分光により、機能発現過程における蛋白質の側の構造変化を明らかにした。また、フェムト秒蛍光分光法を用いて視物質ロドプシンの測定を行い、励起状態における異性化反応過程を明らかにした。
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