まず、RNAポリメラーゼによるDNAの転写を顕微鏡下でおこなわせる系を確立した。ガラス基板上に固定したRNAポリメラーゼ分子が、片端にプラスチックビーズを結合させたDNAを転写しながらたぐり寄せることによって、しだいにビーズのブラウン運動が小さくなる。ブラウン運動が小さくなっていく速度、あるいはブラウン運動停止までの時間とDNAの長さから見積もったRNAポリメラーゼの転写活性はこれまでに報告されている生化学的な方法で測定された活性とほぼ同じであった。 つぎに、転写中、RNAポリメラーゼはDNAの2重らせん構造をなぞって、らせん階段を昇っていくようにくるくると回転するかということを上記の系に少し工夫をして調べることにした。回転観察のための目印としてDNAの片端に結合させるビーズには、非常に小さな蛍光ビーズ(直径20nm)をつけておく。ビーズの動きを蛍光顕微鏡で観察すると、ビーズは時計回りにくるくると回転した。時計方向の回転は、RNAポリメラーゼが右巻き2重らせんにそってDNAをたぐり寄せる時に予想される回転方向と一致する。回転速度は最高で5秒間に1回転程度であった。DNAは非常に柔らかいので、転写とは無関係に回転ブラウン運動をしている。そのために時々反時計方向にも回る。基質である4種類のヌクレオチドの濃度を変えて、回転の速度を測定した。ヌクレオチド濃度が低い時、回転の速度は遅く、濃度が高くなるにつれて回転速度は速くなっていった。これはRNAポリメラーゼのRNA合成速度を反映している。ヌクレオチド濃度が低いとき、回転速度とRNA合成速度を比較してみると、RNAポリメラーゼがDNAの2重らせんの溝を正確になぞりながら転写していることを示唆していた。
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