研究概要 |
ミサキマメイタボヤの再生力は驚異的で、組織の一部から体全体を復元することが可能である.このような再生様式を形態調節という.その再生力を個体の繁殖に利用しているのが無性生殖(出芽)である.この出芽、実質的には形態調節を実行するのは分化した多能性細胞である.本課題研究の目的は、ホヤ多能性細胞が脱分化・増殖・分化転換するために必要な因子群を網羅的に探索し、それらの構造と作用機序を明らかにすることである.初年度に当たる今年は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)、レチノイン酸受容体(RAR)、レチノイドX受容体(RXR)、セリンプロテアーゼ(TRAMP)、セリンプロテアーゼインヒビター(SERPIN)、C型レクチン(TC14)、インテグリン(ITN)を中心に研究を進めた.大腸菌発現系を用いてそれら因子群のリコンビナントタンパク質を調製し、それらを抗原にしてモノクローナル抗体を作製した. ホヤ成体や芽体を切断すると、約6時間後には切断部位の表皮がALDHを発現したことから、ALDHは損傷後最も早く発現する遺伝子産物の一つであることがわかた.ALDHの一次構造がレチノイン酸(RA)合成酵素に高い類似性を示すこと、表皮がRA前駆体(ビタミンAアルデヒド)をもつことなどから、ALDHの働きで産生されるRAが損傷シグナルである可能性が示唆された.RARとRXRは間充織細胞で発現していた.rRAR,rRXRはin vitroでヘテロダイマーを形成し、RAREに結合した.TRAMPは間充織細胞で発現するレチノイン酸誘導性のmodular proteaseで、C末端触媒領域のタンパク質は多能性細胞の脱分化と増殖を誘導した.SERPINは出芽中の芽体で最も強く発現し、TRAMPのアンタゴニストとして働くらしい.TC14は構成的に発現しており、in vitroで多能性細胞に対して増殖抑制活性を示した.また、rTC14は多能性細胞に対してINTα6ホモログの発現を誘導したことから、上皮構築にも一役買っているらしい.以上の結果から、ホヤの体が損傷してから形態調節が始まるまでの一連のカスケードを推定することができた.
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