研究概要 |
本研究の目的は,生命の生存に必須の器官である消化器官が形成され,それが機能的に働くまでの分子的機構を明らかにすることである。平成12年度には,特に胃腺の形態形成と上皮細胞分化(消化酵素ペプシンの分泌)に注目し,腺上皮と内腔上皮の分離がどのようなメカニズムで起こるかを解析した。腺上皮と内腔上皮はきわめて明瞭な境界を持つので,Notch-Deltaシグナリングのような境界決定機構(側方抑制)があるのではないかと考え,Notch,Delta,Serrate,Numbなどこのシグナリングに関わる遺伝子の発現を検索した。その結果,Notch-1は内腔上皮に,Notch-2は腺上皮に限局した発現が,またDelta-1は間充織と内腔上皮に発現が見られた。さらに,Numb蛋白質は腺上皮に局在していた。このような発現パターンから,これらの遺伝子の発現が腺形成や細胞分化に重要であると考え,遺伝子の過剰発現と抑制型のコンストラクトの導入実験を行った。その結果,Notch-1の活性型コンストラクトの導入は腺形成を抑制し,Delta-1の過剰発現は,内腔上皮と腺上皮における細胞分化に影響を与えることが示された。これらの結果は,胃の形成おいて,側方抑制機構が重要な役割を担っていることを示唆し,今後の研究の方向に重要な基盤を与えた。
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